また逢う日まで

2017年8月、愛する人が亡くなりました。ただただ悲しい気持ちばかりですが、現実と向き合いながら生きていこうと思います。この世にはもういないけれど、また逢える日を信じて。

彼との日々

彼との日々はとにかく毎日が楽しかった。


私は好きな時間に起きて

好きな時に仕事をしていた。

自分の頑張り次第で稼ぎになる。

実際は情けない話お小遣い程度しか

稼げてなくて彼に養われてた。

「未来に投資するよ」

彼が言ってくれた言葉を頼りに

いつかもっともっと稼いで

いろいろなとこに行こうと。

怠けても「やってくださいな」って

笑って許してくれてた。

結婚してから働きたいと思ってたけど

亡くなった8月は、

これで稼げなかったら

出稼ぎするからと

彼に宣言していた。

どこまで本気にしてたか分からないけど

順調に稼いでた5日間だったのにな。


お昼に彼はきて仕事の話をしてくれる。

「まじクソだよ」が口癖で

よく悪口を言い合った。

私も働いてたから知ってるけど

あの会社はとてつもなくブラックだ。

「会社や金のために働いてるんじゃない

遊ぶために働いてるんだ」

実際は稼ぐためなんだけど。

休日はお金をかけない

楽しみ方が好きだった。


うちは17時には飲みはじめて

ご飯を作って彼を待つ。

何でもおいしいって食べてくれてたな。

二人でいることがバレないように

(基本夜しか来ないのに

家賃あげられちゃうから)

一緒にお風呂入って

シングル布団で寝る。

夏は暑いし、冬は毛布の取り合いだ。

他の人が聞いたら

のろけ話かもしれないけど

甘い雰囲気はなかった。

カップルというより

パートナー、家族な感じ。

忘れかけられていた誕生日プレゼントは

刺身とお酒だったよ。

もう少しカップルらしいことも

したかった気がするけど

うちららしかったんだろうね。

LINEのやりとりも

待ち合わせ時間の「930ねー」とか

用事を頼む「ゴミ捨てよろ」とかね。


それにしても仕事を辞めてから

なんて自由な生活を送ってきたのだろう。

大学の時よりひどい。

彼がいたからこそで

彼だからこそ許されたのだろう。

働かないことに悩んだ時だって

「若いんだからそんな時が

あったんだっていいんだよ」

「養ってあげるさよー」って…

休みの日はいつも一緒で

サーフィンもして、遊びまくった。

だから彼がいない今

アラサーで無職になって

何もなくなって

ひとりぼっちになったんだけどね。


彼に甘えていたばかり。

恩返しすることもないまま。

彼にとことん甘やかされた

今のうちに生きる希望がない。

それでも生かされるまま

生きていくしかないのかな。

サーフィン

彼に出会うまで

あまりサーフィンに

興味がなかった。

「行ってくる」

「いってらっしゃい」

それだけだったのだが

いつしか見に行くようになった。

彼がやっている間が暇なに思えて

3年前くらいからだろうか…

自分もやってみればいいと思ったのは。

ただ、昔から波にたいして

異常なほど恐怖を感じていた。

(小さい時から泣いていたらしい)

初めての日も怖すぎて泣きわめいて

それだけで終わったことを覚えている。


それでも彼は呆れることなく

教えてくれた。

自分がやりたいのにも関わらず。

だけどやりたい感だしすぎてて

もっと優しく教えてくれる人のがいい

おじさんはすぐ冷えちゃうんだから

不満ばかり言っていたよね。


彼がいなくなってから

いとこに付き合ってもらって

一度サーフィンをした。

その時教えるのがどんなに大変で

冷えてしまうのか初めて知った。

彼がローカルだからこそ

自由に波も乗れてたんだね。

一人じゃとられちゃうよ。

死んじゃったからこそ知ったのに

生きているうちに伝えたかったな。


いつのまにかうちのが

はまっちゃったよね。

雨の日も寒い日も波がない日も

やりたかった。

彼は、もう若くないからと

そんな風に言ってたけど

うちはこれからだったよ。

波が大きい方がサーファーにとって

いいはずなのにうちは小さい時が楽しみで。

それでも付き合ってくれて。

やっとウエット買って冬デビューもできて

少し横に走れるようにもなって

大きい日にはインサイドで楽しんで。

グッドのサインをしてくれて

いつもうちのことを気にしてくれて

「楽しんでるじゃん」そう言ってくれて

毎日波を気にすると

「すっかりローカルサーファーだね」

って笑ってくれてた。


彼がいたからこその。

これからショートボード

教えてくれるんだったのに。

四国にサーフトリップする約束も。

サーフィンを続けるなら

この場所が一番で

彼もサーフィンするために

ここに住んだと聞いた。


これからここを離れる。

彼がいたから住んでた町。

教えてくれたサーフィンを続けていきたい。

一人でやっていけるんだろうか。

思い出ばっかりの土地、新しい土地に

一人で生きていく自信がない。

彼のことを思いながら続けていくか

新しいとこではじめいくのか

まだ決めることができないでいる。

一歩進んで一歩下がる

絶望と前向きな気持ちを考えながら一日が過ぎていく。


彼の死を完全には受け入れていないけど

受け入れていないわけでもない。

今にも来そうな感じがする

でももう来ないことも知っている。


死んだなんて嘘だよね

うちを置いていったりしないよね

ずっと一緒にいてくれるよね

そう思いたいのに

彼の死んだ時の顔が浮かぶ。

あの日彼のお母さんが来たことを思い出す。

はっきりとした映像がながれる。

あぁ…彼は死んだんだ。

眠ったような顔も冷たい感触も覚えてる。

ある意味受け入れることができてるのは

3日間死んだ彼と向き合ったからだろう。

こんな時働いていた方が気が紛れて

良かったのかもと思っていた。

だけどこの先の未来は何もないけど

悲しみにとことん浸れる自分は

恵まれてるとも思った。

辛くても彼との別れを受け入れる

時間があるから。


悲しみに耐えて働いている人を

心のそこからすごいと思う。

何かしているから

思い出さないわけではないから

必死に堪えて頑張っているから。

何もかも捨てて浸りたい気持ちが分かる。

何もしていなくても

生きていることさえ投げたしたくなるから。


そんなうちでも毎日生きている。

ご飯を食べて少しでも笑えて

誰かに感謝することだってある。

笑っても泣いても

喜んでも悲しんでも

変わらないのなら

笑って過ごす方がいいに決まってる。

なのに…

彼がいたらもっと楽しいのに

彼がいたら悲しみも乗り越えられるのに

そう思ってしまう自分がいて。


彼の分まで生きて

彼ができなかったことをして

彼との思い出を大切にして

自分の命を全うしたい。

『彼が死んだことよりも

悲しいことも怖いこともない』

自分は生きていける

その言葉に前向きになれたことも事実。

だけど…

『彼がいない未来が何より怖い』

それが正直な気持ち。


彼のことを思い続けていくのか

新しい人生を歩んでいくのか

今決断する必要がないことまで

考えてしまう。

前向きに考えてみても

考えようとしてみても。

きれいごとを並べてみても

思いのまま言葉に流されてみても。

結局は彼のいない現実には

勝てない自分がいる。

一歩前に進んでみては

一歩下がってしまう。